どんな肺がんが増えているのか?

胸部X線検査・診断は有効か?
新薬の治療成績はどうだったのか?

 

 

肺がんで亡くなる人は、
図1のように男女とも増加しています。

 

しかし一方で、続々と新薬が開発されて
生存期間が延びるなど、治療面では明るい兆しもある

 

どのような治療でどれほど治療成績が伸びたのか、

 

期待の新薬の効果はどうなのか、

 

以下は、順天堂大学医学部附属順天堂医院副院長
・呼吸器内科学教授の高橋和久氏のお話です。

 

図1 肺がん死亡率は、男性1位、女性2位で年々増えている

500× 肺がんグラフ

厚生労働省人口動態統計より

 

肺がんは早期発見が難しく、死亡率が高い

 

Question:肺がんの死亡率は、男性1位、女性2位と
高い割合です(図1)。理由は何でしょうか。

 

A.肺がんの死亡率(人口10万人当たりの死亡数)が
高い理由の1つは、早期発見が難しいことです。

 

初診患者の中で手術できる人は3040%に過ぎず、
半数以上は手術できない進行がんの段階で発見されます

 

肺がんは、がん細胞の組織型の特徴から、
小細胞がんとそれ以外のがん(非小細胞がん)
大きく分けられます。

 

非小細胞がんには、
腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんの3種類があります。

 

これら4種類の肺がんには、

症状が出にくいものと出やすいものがあります。

 

扁平上皮がん小細胞がん喫煙者に多く
煙の影響を受けやすい肺の入口にできます。

 

咳、息切れ、血痰などの症状が早くから出るので、
受診につながりやすいがんです。

 

一方、大細胞がんや、肺がんの約半数を占める
腺がんは非喫煙者の割合が高く、できる場所は肺の奥です。

 

早期から自覚症状があるのはまれで、
かなり進行してから出ます。そのため、発見が遅れるのが難点です。

 

肺がんの種類と特徴

 

タバコの影響をあまり受けない「腺がん」が増えている

 

Question:肺がんの原因といえば喫煙だと思っていたのですが、
なぜ喫煙と関連の薄い腺がんが
50%余りを占めているのでしょうか。

 

A. 肺がんについては、
どのようにしてがん細胞が生まれるのか、
喫煙以外の原因は何か、受動喫煙の影響はあるのか、
女性ホルモンが関与しているのかなど、
さまざまな研究があります。

 

現状では確固たるエビデンスがなく、
多くの原因が複雑に関連していると考えられています

 

1つ言えるのは、喫煙率の低下に伴い、
喫煙者に多い扁平上皮がんが大幅に減少しているということです。

 

数十年前、男性に最も多いのは扁平上皮がんでしたが、
現在は男女問わず腺がんが最多です。

 

腺がんが増えたというより、
扁平上皮がんと小細胞がんが減ったために
相対的に腺がんの比率が増えていると解釈した方がよいでしょう。

 

もう1つの理由は、健康診断の充実です。

人間ドックのオプションに胸部CT検査が加わり、
昔と比べて自覚症状のない腺がんが見つかりやすくなりました。

 

このことも、腺がんの増加に影響しています。
腺がんそのものが増えたというより、
以前よりも発見される数が増えているのです。

 

Question:CT検査のお話がありましたが、
従来の胸部X線検査や喀痰細胞診は、
肺がんを早期発見する上で有効なのでしょうか。

 

A. 自治体の肺がん検診では、
通常は胸部X線検査を行います。

 

40歳以上でハイリスクの人の場合、
つまりブリンクマン指数(*1)が400~600以上なら、
胸部X線検査に加えて喀痰細胞診(*2)を行います。

 

しかし、胸部X線検査では
ごく早期の淡いすりガラス状に見える腺がんを
見つけることはほぼ不可能です。

 

胸部X線写真で目で見える頃には進行していることが多く、
喀痰細胞診を加えても、
早期に発見することは難しいのが現状です。

 

ごく初期の腺がんを早期発見するには、
やはりCT検査が必要です

 

かといって、頻繁にCT検査を受けると、
放射線被曝が問題になるので、
最近は低線量CTを導入する施設が増えています。

 

ただ、CTは感度が高い(=見落としが少ない)のですが、
がんではないものまで拾い上げてしまうのが厄介なところです。

がんだと疑われてもそのうち20%は偽陽性で、
がんではないのです。

 

そのため、胸部X線検査と喀痰細胞診をなくして
すべて低線量CTに置き換えるべき、とも言いきれません。

 

*1 1日の喫煙本数×喫煙年数であらわす指数。

1日20本のタバコを30年吸い続けた場合、20本×30年=600となる。

 

*2 採取した痰を顕微鏡で観察し、細菌やがん細胞の有無を調べる検査。

 

手術不能の肺がんの治療成績を大きく改善した「分子標的薬」

 

Question:肺がんのスタンダードな治療について教えてください。

 

A. 肺がん治療は、がんのタイプや病期によって異なります。

 

非小細胞肺がんは、
IIIAの途中までは手術で切除するのが基本です。

 

がんが3cm以下でリンパ節転移のない初期(IA)であれば、
手術単独で5年生存率が90%なので、
手術だけとする場合もあります。

 

でも、がんが3cmを超え、
肺近くのリンパ節や縦隔(*3)への転移があるII~III期になると、
手術だけでは不十分です。

 

再発リスクを減らすために、
抗がん剤による術後化学療法を併用するのが一般的です。

 

IIIAの後半~IIIBで、手術でがんを取りきれない場合は、
手術は行わず、放射線療法と化学療法を併用します。

 

IV期になると、脳や骨、副腎、肝臓、
もう一方の肺などに転移していますが、
この段階の治療は、近年大きく進歩しています。

最近脚光を浴びている分子標的薬免疫療法です

 

肺がんのスタンダードな治療方針

組織型別・臨床病期別にみた、
TNM分類改訂(2010年1月)後の治療方針
(出典:がん治療認定医教育セミナーテキスト第10版
〔日本がん治療認定医機構教育委員会編、2016年〕p.158、一部改変)

 

Question:分子標的薬や免疫療法で、
肺がんの治療成績はどのくらい上がったのでしょうか。

 

A. 図は、IV期の非小細胞肺がんの患者さんの生存曲線です。

治療開始からの生存期間の中央値は、
1993~95年は8.2カ月という短さでした。
それが現在では24カ月を超え、約3倍にも延びています。

 

この生存期間の延長に大きく貢献したのは
2000
年代に登場した分子標的薬です

 

進行非小細胞肺がんの治療成績の変化

非小細胞肺がんの
IV期の初回治療例における生存期間と中央値
(2010年以前の数字は
国立がん研究センター中央病院呼吸器内科大江裕一郎氏、
2010年以降は順天堂大学附属順天堂医院呼吸器内科のデータによる)。

 

分子標的薬は、がん細胞が分裂するスイッチを
ピンポイントでブロックしたり、
スイッチを入りにくくする薬です。

 

腺がん患者の半数はEGFR(上皮増殖因子受容体)という
タンパク質の遺伝子に変異があり、
その人たちを対象とするEGFR阻害剤がよく使われます(*4)。

 

ゲフィチニブ(商品名イレッサ)、エルロチ二ブタルセバ)、
アファチニブジオトリフ)の3つが主流です。

薬をやめると再発するため根治は困難ですが、
高い効果が得られます。

 

抗がん剤が効かず寝たきりだった人が、
イレッサ服用1カ月でがんが消え、
歩けるようになったという例があるほどです。

 

ただし、分子標的薬が使えるのは非小細胞肺がんだけで、
小細胞がんには使えません

 

さらに、標的とする遺伝子変異がない人には効かない
という問題もあります。

 

*3 左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分。
心臓、気管、食道、大血管などが存在する。

 

*4 EGFR遺伝子のほかにも、
ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、
RET融合遺伝子など、さまざまな遺伝子異常があり、
治療薬が開発されている。

 

4の治療「免疫療法」にも新薬が登場

 

Question:手術、化学療法、分子標的薬に続く免疫療法はいかがでしょうか
ニボルマブが肺がんに保険適用されて1年、
高額の薬価も2017年2月から半分になることが決まり、
何かと話題ですね。

 

A1. 免疫チェックポイント阻害剤
ニボルマブ(商品名オプジーボ)は、
従来の抗がん剤よりさらに生存期間を延ばせる薬です。

 

がん細胞は、体にもともと備わっている免疫機能の
攻撃を受けないように、
表面にPD-L1というタンパク質を作り出すことがあります。

 

このPD-L1は、がん細胞を攻撃するリンパ球の表面の
PD-1と結合して、リンパ球ががんを攻撃するのを止めるよう
シグナルを伝えます。

 

オプジーボは、がん細胞よりも先にリンパ球の
PD-1と結合することで、
PD-1とPD-L1が結合するのを妨ぐ薬です。

 

これによって、リンパ球が
がんを攻撃できるようにサポートするのです。

 

オプジーボは、手術では取り切れない非小細胞肺がんがあり、
さらに初回治療として他の抗がん剤を使っても
進行や再発が見られる患者さんへの
2次治療として使われます。

 

肺がんと診断されたばかりの患者さんに対しては、
治験(薬事承認を目的とした臨床試験)が行われていないため、
現状では使用できません

 

オプジーボの問題は、
使用が認められている患者さんの中でも、
効果が期待できる人が約20%にすぎないことです。

 

もともとがん細胞にPD-L1が発現しない、
あるいは発現が少ない人に使っても
効果がないからです。

 

ところが、薬が効く人・効かない人がいることは
承認後に判明したため、現状では患者さんの
PD-L1発現の有無に関する使用制限がありません。

 

高額な薬であるだけに、
効果のある人のみに大事に使うよう、
なんらかの制限をかけてほしいと思っています。

 

Question:今後も新薬が続々登場すると思いますが、
中でも期待できる薬はありますか

 

A. 2016年12月19日、オプジーボに続く
免疫チェックポイント阻害剤の
ペムブロリズマブ商品名キイトルーダ)が、
PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の
非小細胞肺がんに対して承認されました。

 

この薬は当初からPD-L1発現が高い人に絞って
治験が行われたので、真に効果の得やすい人
(PD-L1陽性の人)だけに使われます。

 

一見すると該当者が限られるように思うかもしれませんが、
2次治療あるいは3次治療に用いるオプジーボと違って、
キイトルーダは治療の最初の段階から使うことができるため、
対象者は拡大すると思われます。

 

この新薬の登場で、肺がんの治療成績が
さらに上がるのではないかと期待しています。

 

 

髙橋和久(たかはし かずひさ)さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院副院長、呼吸器内科学教授

著書:『世界で一番やさしい 肺がん(知ってなおすシリーズ)』(エクスナレッジ) 。

 

出典:日経Gooday

http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100023/122200030/?waad=abLZtgAl

 

なお、オプジーボの高額な治療費の
健康保険制度への影響を懸念する声については
こちらを参照ください。(出典:MRIC by 医療ガバナンス学会)