放置すれば動脈硬化から
狭心症や脳梗塞を引き起こし、
突然死に至りかねない。
◆正常にするにはどうしたらいいか。
生活習慣の改善と薬物療法になる。
生活習慣をどう改善すればいいのか、
薬物療法はどのように進められるのか
帝京大学理事・名誉教授で
同大学臨床研究センターセンター長の
寺本民生氏のお話を要約すると次のとおりです。
□ どのような仕組みで脂質異常症が起きるのか。
コレステロールには、
LDLコレステロール(以下、LDL)と
HDLコレステロール(以下、HDL)が
あります。
コレステロールの7~8割は、
体内で合成されています。
LDLコレステロールは肝臓で作られ、
過剰になると血中に溜まってしまいます。
そうなると、
行き場がないLDLは動脈の壁に入り込む
しかありません。
これが動脈硬化の原因となります(下図)。
図 HDLコレステロールとLDLコレステロールの働き
悪玉のLDLと善玉のHDLのバランスが大切だ。出典:日経Gooday
一方、HDLコレステロールは小腸などで作られ、
動脈に溜まったLDLを引き抜いて
肝臓に回収する役割を果たします。
つまり、脂質異常は
LDLコレステロールが高すぎること、
HDLコレステロールが低すぎること
のいずれでも起きます。
これらは動脈硬化の原因になるのです。
また、脂質の1つである中性脂肪も、
増えると肥満や脂肪肝の原因となり、
動脈硬化を引き起こすので
注意が必要です。
□ LDLや中性脂肪が増えたり、HDLが減ったりする原因は何か。
脂質異常症の約9割は、
動物性脂肪に偏った食生活や
運動不足、喫煙などの生活習慣によるものです。
遺伝からくる家族性の脂質異常症は
1割程度です。
脂質異常症は、
高LDL・低HDL・高中性脂肪の
3つのタイプに分かれます。
なかでも多いのが、
高LDL、高中性脂肪の2つです。
割合はほぼ同程度です。
低HDLはそれほど多くありません。
脂質異常症を放置すると、
徐々に動脈硬化が進み、狭心症、
脳梗塞などで突然死に至ることも珍しくありません。
そのため、脂質異常症は高血圧と同様、
サイレントキラーと呼ばれます。
◆対策1:LDLが高い人はまず徹底的に動物性脂肪の摂取をやめてみる
生活習慣が原因の場合は、
生活を変えれば改善するはずです。
そのため、通常、すぐには薬を使いません。
高LDLに対しては
食事療法は効果が高く、
コレステロールや飽和脂肪酸の
摂取量を減らすと効果があります。
食事に含まれるコレステロールが
血中のコレステロール値に与える影響は、
個人差が非常に大きいのが特徴です。
そのため厚生労働省は、
コレステロールの摂取上限値が撤廃しています。
だからといって
好きに食べていいと考えるのは誤解です。
食事を変えても反応しない人には、
薬による治療を検討します。
また、中性脂肪が高い人には、
別のアプローチが必要です。
◆対策2:LDLや中性脂肪が高い場合の薬物療法はどのように?
食事を改善しても効果がなければ、
薬を検討します。
高LDLに対しては、
9割以上の割合で使うのが
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
という種類の薬です。
スタチンは安全性と有効性が立証された薬で、
約3割の動脈硬化が予防できます。
スタチンの効果を高めるために、
エゼチミブ(商品名ゼチーア)という薬を
併用することもあります。
また、2016年4月以降、
エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ
(プラルエント)という新薬が発売されました。
◆対策3:中性脂肪が高いタイプには、高LDLとは別の薬を使う。
中性脂肪が肝臓で作られる過程を
ブロックするのがフィブラートで、
中性脂肪を下げるのに高い効果を発揮します。
2017年頃には、
新しいフィブラートのペマフィブラート
(商品名未定)が発売予定です。
◆対策4:HDLを増やす特効薬は「運動」
HDLコレステロールには
食事はほとんど関係なく、
代わりに効くのが運動です。
低HDLは、多くの場合、
運動すれば数値は上がります。
運動は、中性脂肪が高いタイプにも有効です。
特に効果的なのが有酸素運動です。
少し息がはずむ程度の
軽いジョギングがいい。
ここで肝心なのは継続すること。
早歩きでも何でもいいので、
とにかく続けることです。
有酸素運動に加え、
筋力トレーニングも重要です。
筋肉の動きが活発になると糖の利用が増え、
糖尿病のリスクが下がります。
動脈硬化にはストレスも関与するため、
筋肉を使ってストレス解消できれば一石二鳥です。
□プロフィール
寺本民生(てらもとたみお)さん
帝京大学理事・名誉教授 臨床研究センターセンター長/寺本内科・歯科クリニック内科院長 専門は内分泌・代謝(脂質異常症)・動脈硬化。
出典:日経Gooday