痛風発作より怖い動脈硬化
日本痛風・核酸代謝学会理事長の細谷龍男氏
(東京慈恵会医科大学名誉教授)のお話です。
http://gooday.nikkei.co.jp/…/report/14/091100024/031600019/…
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることに なりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」という メタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
<尿酸値を下げればメタボは予防できるのか?>
11~17歳の、肥満があり血圧が高めの若者を対象に行われた研究では、プラセボ(偽薬)を2カ月間投与した群では血圧が上昇していたのに対し、 尿酸降下薬(アロプリノール)を2カ月投与した群では、尿酸値だけでなく血圧も低下していた(*1)。このことは、動脈硬化が進行し始めたばかりの段階に 尿酸値を下げることで、高血圧などの進展を食い止められる可能性があることを示唆している。
現在、東京慈恵会医科大学名誉教授で日本痛風・核酸代謝学会理事長の細谷龍男氏らは、400人の高尿酸血症患者を対象にして、尿酸値をどれだけ下 げれば血圧が下がり、慢性腎臓病の進展を抑えられるのかを検証するための臨床試験を行っている。「数年後に、両者の関係をきちんと示すデータが出れば、高 尿酸血症のガイドラインでも目標数値の根拠が明確になり、高尿酸血症がメタボの診断基準に加わってくる可能性もある」という。
高尿酸血症とメタボリックシンドロームの関係
(いずれも推奨度B=言い切れる根拠がある)
1.血清尿酸値の上昇に伴ってメタボリックシンドロームの頻度は増加する。
2.痛風患者はメタボリックシンドロームの各構成要素を高頻度に有し、メタボリックシンドロームに該当する場合が多い。
3.高尿酸血症はメタボリックシンドロームの診断基準には含まれていないが、メタボリックシンドロームの周辺徴候であることが示唆される。
4.内臓脂肪の蓄積に伴って血清尿酸値は上昇する。
5.高インスリン血症は腎尿細管における尿酸の再吸収を増加させ、血清尿酸値を上昇させる。
(出典:『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版 2012年追補 ダイジェスト版』日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編)
<アルコールを控え強い運動は避ける>
医学研究は着々と進んでいるが、それを待って尿酸値が高いまま放置していては、痛風の激痛にさらされかねないのはもちろん、どんどん動脈硬化が進んで、命取りになりかねない。
尿酸値がやや高いぐらいであれば、まずは、食事療法と運動療法が基本になる。
*1 Soletsky B, Feig DI. Uric acidreduction rectifies prehypertension in obese adolescents. Hypertension. 2012;60:1148-1156.
とりわけメタボ関連であれば、肥満を解消して、適正な体重に戻すために、過食は禁物。さらに、尿酸値を抑えるには、その原料となるプリン体を多く 含む食物を控えることだ。悲しいかな、プリン体は旨味の成分で、核酸中に多く含まれるので、プリン体を多く含む物には、おいしい物が多い。そして、毎日飲 酒習慣のある人は、明らかに尿酸の産生が高まることが知られている。
尿路結石や腎障害につながることを避けるためには、水分を多めに取って尿量を増やすことも大事だ。そして、野菜を多めに。肉や魚などの量を減らせ るし、尿をアルカリ化でき、さらに野菜に含まれる水分が尿量を増やすのにも役に立つ。高血圧を合併することが多いので、塩分も控えたほうがいい。
<尿酸値が高い人は有酸素運動がおすすめ>
尿酸値が高めの人の運動は、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が良い。ややハードな無酸素運動を行うと、筋肉での尿酸の産生量を上げてしまうとされる。有酸素運動は、尿酸の産生を増やさずに運動量を増やして、体重をコントロールしやすい。
尿酸は、血糖ほど、食事などによる日内変動が大きくないので、運動はまめにすこしずつでも毎日積み重ねていくのがいい。運動は、体重が多くない人でも尿酸値を下げる効果があるが、メタボの人がより効果が高いのは言うまでもない。
本来は高尿酸血症になりにくい若い女性など、もともと遺伝的な要因が強い場合や、食事と運動だけでは効果が不十分という人は、早めに薬を飲むほうがいい。
薬には、尿酸生成阻害薬と尿酸排泄促進薬(尿細管からの再吸収を抑制する薬)がある。数年前から、日本で開発された副作用の少ない2種類の尿酸生成阻害薬が加わり、選択肢が増えている。
さて、尿酸は全く役立たずで、体に良い作用はないのだろうか。実は尿酸は、高い抗酸化作用を持ち、有害な活性酸素を除去して、酸化ストレスから組 織を保護する作用がある。神経系の保護にも関与しているとされ、多発性硬化症やパーキンソン病などの人は尿酸値が低い人が多いといわれている。尿酸値は、 低ければ低いほど良いというわけではない。
私の健康法 細谷龍男氏
食事:好き嫌いがほとんどないため、偏食をせずにバランス良く何でもおいしく食べ、食べ過ぎ、飲み過ぎることはしない。
運動:平日は毎日の電車通勤に加え、広い病院内を歩き回るので、1日平均1万歩をクリア。休日は、30分ほど散歩を楽しむ。季節を楽しみ、周りの変化に目を留める。鉛筆と紙を必ず携行し、思いついたアイデアを書き留める思索の時間にもなっている。
Profile
東京慈恵会医科大学名誉教授/慢性腎臓病病態治療学講座教授。
1972年東京慈恵会医科大学卒業。1997年同大第二内科(2000年内科学講座腎臓・高血圧内科と改組)教授。2013年4月から現職。日本痛風・核酸代謝学会理事長、日本腎臓学会・前理事、第110回日本内科学会総会・講演会会頭。