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65歳以上の5000人を対象に15年以上にわたり調査研究した結果、
健康のために効果的な運動の法則が分かってきた。
その法則とは
脳卒中、心臓病や高血圧、骨粗しょう症を予防する運動とは。

 

以下は、
東京都健康長寿医療センター研究所の
青栁幸利 氏のお話です。

 

同研究所は15年以上にわたり、
65歳以上の5000人を対象に、
身体活動と健康に関する調査研究を行ってきた。

 

この結果、
健康のために効果的な運動の法則が分かってきたという。

 

健康にいい運動法とは何か。

 

ずばり、結論から言うと
「1日8000歩・(そのうち)中強度の運動20分」だ。

 

上記調査研究では、
対象者に活動量計をつけてもらい、
24時間の身体活動の実態を分析した。

 

その結果、みえてきた黄金律が、
1日8000歩・中強度の運動20分」だ。

 

中強度の運動とは、
うっすら汗ばむ程度の速歩きや、
ぞうきんがけ、ラジオ体操など、

 

“なんとか会話はできるが、
歌は歌えない”くらいの運動を指す。

 

活動量計では運動の量(歩数)と、
質(強度)が分かるのだ。

 

下の図1は、調査研究で実証した
「身体活動と予防できる病気の関係」を示したものだ。

 

図1 身体活動(歩数・中強度運動の時間)と予防できる病気の関係

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出典:日経Gooday

 

図2 運動強度の目安:出典:日経Gooday

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 図1のそれぞれの歩数・中強度の時間をクリアすると、
そのライン上に書かれた病気の発症率が
おおむね10分の1になるという
(運動の強度については図2を参照ください)。

 

例えば、「7000歩・中強度の運動15分」を続ければ、
骨粗しょう症はおおむね予防できるということ。

 

骨粗しょう症になった人の
身体活動の実態を調べたところ、

 

骨粗しょう症になった人の9割以上は
「7000歩・中強度の運動15分未満」で、
「7000歩・中強度の運動15分以上」の人は
数えるほどしかいなかった。

 

一つひとつの病気について
同じように身体活動との関連を調べた結果、
導き出されたのが図1で示した内容だ。

 

「運動はすればするほど体にいい」とは限らない

 

 運動はすればするほど体にいいと
思っている人は多い。

 

確かに、ある程度まではそう言えるのですが、
運動による健康効果は1万2000歩・40分が頭打ち。

 

つまり、それ以上やっても予防できる病気は
なかったということです。

 

それどころか、「8000歩・20分」を超えると、
運動しすぎによる弊害が出てきやすくなります。

 

例えば、運動をしすぎると
膝関節を傷めやすくなることが知られている。

 

「適度な運動は血流を促し、
動脈硬化の予防につながりますが、

 

運動をしすぎると、
血流が速い状態が長時間続いたり、
活性酸素が多く発生することにより、
血管を傷めることにもつながるのです。」

 

また、「1日8000歩を超えると、
疲れがたまって免疫機能が下がりやすくなる
ことも分かりました。

 

過ぎたるは及ばざるがごとしといいますが、
長い目で見るとやりすぎはマイナスです。」

 

健康のための運動は、
量(歩数)と質(強度)のバランスが大切だ。

 

興味深いことに、
「5000歩・7.5分」「7000歩・15分」
「8000歩・20分」のように、

 

歩数と中強度の運動時間の関係は
ある程度決まっていて、

 

青栁さんの研究によれば
93%の人がこのライン上
(図1の赤色の斜線上)で生活しているという。

 

「おそらく、それが人間にとっての
自然な歩数と中強度の運動の
組み合わせなのでしょう。

 

ここから大きくはずれるような運動は、
リスクを伴ったり、健康効果が得られない
という状況を作り出してしまいます」

 

リスクについては前述の通り。

 

健康効果が得られない状況とは、
例えば、8000歩はクリアしていても、
中強度の運動が20分(特に半分の10分)
に満たない場合を指す。

 

例えば、
これまで4000歩しか歩いていなかった人が、
急に8000歩歩くことにしたとする。

 

すると、最初のうちは速歩き(中強度の運動)
ができていても、だんだん疲れてきて
ダラダラ歩く時間が増えてしまう。

 

こうなると、ただ疲れるだけ。

疲労が残って翌日は歩くのが嫌になってしまう。

 

「運動が3日坊主になる人の多くは、
はりきりすぎでやりすぎ。

 

疲れない程度に徐々に歩数と強度を
伸ばしていくことが、
運動を長続きさせるコツです」

 

内勤の人は“ちょい足し”で1日8000歩を目指そう

 

 1日8000歩といわれても、
自分が普段どれくらい歩いているか
分からない、という人も多いだろう。

 

デスクワークの場合、
1日8000歩をクリアするのは、
結構難しいものです。

 

対策として
社内では「2階上まで、3階下まで」は
エレベーターを使わずに階段を使う。

 

同僚に用事があるときは内線せずに出向く、
食事は社員食堂ではなく
片道10分くらい歩く店に行く、

 

帰り道はいつものコンビニではなく、
ちょっと遠いコンビニに寄るなど、

 

歩数の“ちょい足し”を心がけると、
特別な運動をしなくても、
1日8000歩は実現できるという。

 

男性の1日の歩数の平均は7000歩、
女性は6000歩といわれているので、

 

今よりも1000~2000歩増やすイメージ、
と言う。

 

中強度の運動は代謝をよくし、体温を上げる

 

 ところで、図1で示したように、
ある程度の歩数と中強度の運動時間までは、
それらが増えるに従い、
予防できる病気が増えるのはなぜなのだろうか。

 

「一言でいえば、
それは運動をすると代謝が良くなり、
脂肪が燃焼したり、体温が上がりやすくなる
から」だ。

 

 「運動にはさまざまなメリットがありますが、
まず、体温が上がることに注目してみましょう。

 

私たちの体温は明け方4時前後が一番低く、
夕方4時前後が一番高いというリズムを
繰り返しています。

 

しかし、40歳くらいになると、
体温が高くなるべきときに高くならず、
低くなるべきときに低くならなくなる。

 

つまり、体温にメリハリがなくなってきます」
 体温が低いと脂肪分解酵素であるリパーゼの
働きが悪くなるため、脂肪が燃えにくくなる。

 

また、免疫力の低下や、睡眠の質の低下を招くという。

 

 「私たちの体は、
体温がグッと下がるときに眠れるようにできています。

 

最も高くなるべき時間帯の体温が低いと、
そこから下がっても落差がないため、

 

なかなか眠れない、夜中に目が覚めるなど
トラブルのもとになります。

 

体温が低い人ほど睡眠効率が低かったり、
体調が悪かったりし、

 

そういう人ほど歩数と中強度の
運動時間も少ないことが
分かっています」

 

 そもそも、なぜ加齢とともに体温が下がるか
というと、それは筋肉の量が減ることが大きい。

 

運動、特に筋肉量を増やす中強度の運動を
することは、体温アップにつながり、
万病の予防になります。

 

認知症や寝たきりを予防したいなら代謝を下げない

 

ウォーキングは認知症予防にもなる。

 

近年、認知症予防のためのさまざまな
脳トレ法が発表されている中、

 

青栁さんは「8000歩・20分」を
続けてみるのも一策と話す。

 

 「運動しながら計算するなどの
方法が話題になりましたが、

 

物事の効果を検証する際に大切なのは
“続けられるかどうか”です。

 

これからもいろいろな健康法が
登場するでしょうが、

 

『自分に合った方法か』『続けられるか』が、
試してみるかどうかを
見極める大きなポイントになります。

 

 そもそも認知症は、いきなりなるわけではない。
「いくつもの要因や疾病がドミノ倒しのように
つながって生じるものであり、

 

予防したいなら、
そもそも代謝を下げないことが大事」と青栁さんは言う。

 

 「食べすぎや運動不足で代謝が落ちると、
筋肉が減ります。

 

すると、熱を発生させる場所がなくなるため、
体に脂肪がたまりやすくなります。

 

それを放置すると内臓脂肪がたまり、
高血糖や高血圧、脂質異常が起こる。

 

それが進むと動脈硬化になり、

 

さらに進むと、
脳梗塞や心筋梗塞に至る。

 

詰まりどころが悪ければ、
血管性認知症、寝たきり、死亡という道をたどります。

 

図1の斜線上に書かれた病気は、
このようにすべてつながっているのです。

 

つまり、認知症や寝たきりを予防したいなら、
何より代謝を下げないこと、
つまり、運動が大事、ということです。

 

青栁さんが指導しているような身体活動量計を
使った健康づくりの取り組みは、
日本各地の自治体、企業健保などに広がっている。

 

 

青栁幸利(あおやぎ ゆきとし)さん
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
医学博士。

 

出典:日経Gooday
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/16/072000046/121200009/?waad=abLZtgAl