肺炎は日本人の死亡原因の第3位。
残念ながら、この死亡率は
今後増えていくと予想されている。
これを予防するには、どうしたらいいか?
年代別に発症パターンとその原因を知る。
肺炎はどのような原因で起こり、
どう予防すればいいのか。
以下は、公益財団法人
結核予防会複十字病院院長の後藤元氏のお話。
日本人の死亡原因は、
1位がん、2位心疾患、3位脳血管疾患、
の3つが不動の地位を保ってきた。
だが、このところ肺炎が頭角を現し、
2011年には3位にランクインしている。
肺炎死亡率は今後さらに高まると予想される。
冬ならではの病気として、
真っ先に思い浮かぶのが風邪やインフルエンザだ。
これらのウイルス感染によって
気道が炎症を起こすと、
バリア機能が破壊され、
そこを足掛かりとして
菌が肺に入り込み、肺胞にまで炎症を
広げてしまい肺炎となる。
肺炎死亡率は今ふたたび上昇傾向にある。
主な死因別死亡率の年次推移
出典 平成26年人口動態統計月報年計〔概数〕の概況
肺炎を引き起こす病原体として、
一番多いのは、全体の約3割を占める肺炎球菌。
これは身近に存在する細菌の1つで、
高齢者や乳幼児のように免疫力が低い人や、
病気で体力が下がった場合だけでなく、
健常者にも肺炎を引き起こすことがある細菌だ。
肺炎の原因は、他にもたくさんある。
下表に示した代表例に加えて、
食物や唾液などと一緒に菌が肺に入って起こる
誤嚥(ごえん)性肺炎もある。
多彩な原因を特定することが難しいために、
肺炎の治療は一筋縄ではいかない。
肺炎の種類と主な原因
細菌性肺炎 | 肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌(*)、レジオネラ菌、緑膿菌などの細菌が原因で起こる |
非定型肺炎 | マイコプラズマやクラミジアなど、一般的な細菌・ウイルスとは異なる微生物が原因で起こる |
ウイルス性肺炎 | インフルエンザウイルス(*)、RSウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス(はしか)、水痘ウイルス(みずぼうそう)などのウイルスによって起こる |
*紛らわしいが、インフルエンザ菌とインフルエンザウイルスは別のものである。
肺炎の原因は年齢層によって違う
高齢者の肺炎を引き起こしやすいのは、
何といっても肺炎球菌だ。
加齢により嚥下(ものを飲み込む)機能が衰えるため、
誤嚥性肺炎も増えてくる。
40~50歳代でも肺炎球菌による肺炎はみられるが、
発症頻度は低い。
一方、
10~20歳の若い世代は、
マイコプラズマという菌による肺炎
(マイコプラズマ肺炎)が目立つ。
「マイコプラズマが体に入ると、
体が異物から身を守ろうとしてさまざまな
反応を起こします。
これを免疫反応といいますが、
反応が強すぎて肺炎を起こしてきます。
一般に、子どもを含む若い世代
がかかりやすい肺炎です」(後藤氏)。
そのため、免疫反応が弱い高齢者は
マイコプラズマ肺炎にかかりにくいと
言われているが、
最近は活動的な高齢者が増えたため、
高齢者でもマイコプラズマ肺炎がみられる。
「70歳でマイコプラズマに感染する人もいます」(後藤氏)。
肺炎と普通の風邪、症状はどう違う?
肺炎の症状は、
咳、痰、発熱、息苦しさ、胸の痛み、この5つが代表だが、
いずれも風邪の症状と共通している。
風邪との大きな違いは何か。
「風邪は、放っておいても、
ふつうは5日以上も長引くことは少ないのですが、
症状が強くて長引く場合は肺炎の可能性も
考える必要が出てきます。
ポイントは、それぞれの症状が風邪より重いこと。
そして発熱が3~5日と長引くことです」。
ただし、症状の現れ方は、年齢によって違う。
若い人の症状は典型的で、
体が菌やウイルスを排除しようとする反応として、
高熱や咳、痰が出る。
それに対し、
高齢者は異物に反応する力が低いため、
発熱しても微熱程度で、咳や痰も少ない。
本人が症状を訴えないこともあるので、
発見が遅れやすい。
元気がなく食欲もない、精神的に不安定であるなど、
普段と様子が違うことが、
実は肺炎の症状だったりする。
高齢者の肺炎は5大症状が必ず出るとは
限らないため、周りの人による見守りが大切だ。
ペニシリンは効きにくくなったが、効く!
ありがたいことに、抗菌薬(抗生物質)という
心強い味方がある今、
多くの肺炎は薬によって治すことができる。
ところが、肺炎を治す特効薬だったペニシリンで、
かってのように奏効するものは、
現在では肺炎球菌の約半数まで減っている。
効き目が下がった理由は、
ペニシリンに耐性を示す
肺炎球菌が出現したためだ。
肺炎球菌の多くは、ペニシリンと構造が似た
他の抗菌薬にも耐性を示す。
だが、ペニシリンが全く効かないわけではない。
治療のポイントはペニシリンの量の加減にあります。
ペニシリンは非常によく効く薬で、
0.00001mg/mLといった微量で効果を発揮します。
ですから、通常より多い量のペニシリンが体に入ると、
いくらペニシリン耐性のある肺炎球菌でも
だいたいは死滅します。
現在の治療では、
ペニシリン耐性のある肺炎球菌に対しても、
多くの場合、
ペニシリンの量を増やすことで対応できます。
しかし、死に至る恐れがあるほど重症の場合は、
ペニシリンを使わないこともある。
代わりに用いるのは、
切り札であるバンコマイシンだ。
バンコマイシンは、
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に
用いることで知られる薬です。
状態が悪い肺炎球菌肺炎で、
ペニシリン耐性があるとわかっていれば、
最初からバンコマイシンを使うこともあります。
「肺炎球菌ワクチン」は侵襲型肺炎に対しても効果がある
肺炎予防の第1は、ワクチンだ。
高齢者がかかると肺炎を併発しやすい
インフルエンザのワクチンに加え、
肺炎球菌の感染を防ぐワクチンもある。
肺炎球菌ワクチンに関しては、
2014年10月から、高齢者への接種が
定期接種として行われることになった。
しかし、ワクチンの接種率はいまだ3割程度。
自治体からの助成があるといっても、
該当年齢は毎年65歳、70歳…と
5歳おきに限られる上、
助成金額が接種費用の半額程度という点も、
接種率が上がらない理由とみられている。
自己負担が1人3000~5000円とすると、
夫婦で接種するとそう安いものではなく、
尻込みする人もいるかもしれない。
とはいえ、肺炎球菌ワクチンは、
菌が血液にまで入ってしまう
侵襲型の肺炎球菌肺炎にも有効だ。
侵襲型のメカニズムはまだ解明されていないが、
抗菌薬を投与しても改善しないまま、
数日で死に至るタイプも、まれではあるが存在する。
万一に備え、
早めのワクチンで身を守るに越したことはない。
ワクチン接種によって、新たな肺炎球菌が活発になる恐れも
肺炎球菌ワクチンの接種が広がれば、
一定の肺炎予防効果は得られるとみられる。
だが、ゆくゆくは弊害も起こり得るのではないか、
と後藤氏は指摘する。
「インフルエンザウイルスにA香港型や
Aソ連型などの型があるように、
肺炎球菌にも100種類近い型(血清型)があります。
そのうち
23種類の血清型に対する免疫をつける23価ワクチンと、
13種類に対応する13価ワクチン、
現在承認されているのはこの2つです(*1)。
いずれのワクチンも、
100種類のうち一部の肺炎球菌を抑えますが、
問題は、残るタイプが“自分達の出番がやってきた”と
言わんばかりに暴れ始めることです。
これは実際に、現在米国で起こっている
現象(血清型置換)です。
ワクチン接種によって、
ワクチンがカバーしないタイプの
肺炎球菌が増える状況を生んでいるとも言えます」(後藤氏)。
日本も、米国と同じ道をたどる可能性が十分にある。
今後、ワクチンの効果がどう変化していくか、
注意深く見守る必要があるだろう。
*1 2016年1月現在、
成人への肺炎球菌ワクチンの定期接種は23価のみ。
対象は65歳以上で、
特定の病気がある場合は60~65歳の人にも
ワクチン接種が承認されている。
13価ワクチンは乳幼児に対して
定期接種が始まったが、
成人に関しては任意接種である。
(出典 日経Gooday)
飛沫感染に要注意
肺炎予防の第2は、
感染経路を断つことだ。
つまり風邪やインフルエンザのように
肺炎の引き金になる感染症にかからないこと。
呼吸器感染症は、結核のように
空気感染でうつる場合もあるが、
多くの感染経路は飛沫感染と接触感染だ。
このうち盲点になりやすいのは、接触感染。
意外と多いのは、
風邪をひいた人がドアノブなどをさわり、
そこを別の人がさわって、
菌やウイルスが手につき、
そのまま目や鼻をこすったりして
感染するパターンです。
本来、マスクの目的は、
鼻や口から飛沫を取り込まないことですが、
不用意に手で顔をさわることを防ぐ効果
の方も大きいと考えられます。
朝夕の通勤電車、会社の中…
どこもかしこも菌やウイルスが潜む可能性がある。
人から病気をうつされないために、
そして人に病気をうつさないためにも、
今やマスク着用は冬の常識だが、
手洗い・うがいも忘れずに励行しよう。
後藤 元(ごとう はじめ)さん
公益財団法人結核予防会複十字病院院長/杏林大学名誉教授
呼吸器内科の中でも特に感染症を専門とする、
呼吸器感染症のエキスパート。
出典:日経Gooday
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100022/021900019/?waad=abLZtgAl