ストレス過多の現代では625×722473
通勤中などに強烈な下痢に襲われたとき、
過敏性腸症候群という病気の可能性が高い。

これを単なる下痢と見てはいけないという。

以下は、

長年にわたり心療内科でこの過敏性腸症候群を
診てきた東急病院心療内科医長の
伊藤克人氏のお話です。
ストレスと腸の関係、対処の仕方とは。 

 

検査で異常がないのに下痢や便秘を繰り返す

過敏性腸症候群は、
下痢、便秘、腹痛など、
お腹のさまざまな症状によって、
日常生活に支障をきたす病気です。

X線検査や内視鏡検査を行っても、
消化管に明らかな異常(器質的異常)が
見つからないにもかかわらず、
働きの異常(機能的異常)が生じているのが特徴。


下痢型のほか、便秘型や、両方を繰り返す混合型もあります。

よくあるのは、通勤中の電車内で腹痛が生じ、
トイレを求めて何度も途中下車せざるを
得なくなるケース。

主な原因はストレスで、
緊張や不安の強い人、神経質、完璧主義、
過剰適応(*2)などの性格の人に
多い傾向があります。

重症の人は少なく、
全体の約7割は軽症です。

*2 過剰適応:いわゆる頑張り屋のこと。
頼まれた仕事を一生懸命こなすうち、
知らず知らずにストレスがたまり、
お腹の症状が表れて初めて頑張りすぎていると気づくことが多い。

ストレスがお腹に影響を及ぼす

たとえば、会議で急に発言を促された時に、
大変だと思う信号が大脳辺縁系に伝わり、
不安・緊張という感情が起こります。

さらに神経の中枢である視床下部に伝わって
交感神経と副交感神経が働き、

ドキドキしたり汗が出たりします。

緊張が終わればいったんストレスが薄れますが、
大変な状況が続くと、
緊張信号が出しっぱなしになります。

そうすると視床下部がオーバーワークになって
バランスが崩れ、本来は交感神経が働く時に
副交感神経が働いたりします

交感神経が緊張すると腸はあまり動かないので
症状は出ませんが、
副交感神経が働くと腹痛や下痢を起こします。

図 過敏性腸症候群が起こるしくみ

出典:日経Gooday

540×悪循環

大切なのは、過敏性腸症候群では、
ほかの重大な病気と同じような症状が出ることです。

潰瘍性大腸炎やクローン病、
大腸がんなどの初期症状は、
過敏性腸症候群とほとんど変わりません。

特に50歳を超えるとがんのリスクがあり、
近年増えている大腸がんを見過ごさないことが大切です。

治療薬はタイプや症状によって使い分ける

薬は症状に応じて使い分けます。

頻度の高い下痢型に対してよく用いるのは、
腸管運動調整薬のラモセトロン(商品名イリボーほか)です。

便秘型に対しては、2017年3月から
リナクロチド(商品名リンゼス)が発売されたばかりです。

まだ発売から間がないので、
効果のほどは今後わかってくるだろうと思います。

症状が強い過敏性腸症候群には抗うつ薬を用います。

抗うつ薬は、便意を感じにくくする作用があります。

「心の持ちよう」をコントロールすることが大切

日常生活上の注意事項として

症状を緩和する食べ物は
残念ながら特にありません。

バランスのとれた食事や十分な睡眠など、
やはり規則正しい生活が大切です。 

特に大切なのは「心構え」のようなものです。

慢性的なストレスで緊張しっぱなしの人は、
積極的にリラックスする時間を作って、
緊張信号を抑えることが肝要です。

無理なことは「あるがまま」にして、
放っておく感覚を身に付けると効果的です。

さまざまな方法がありますが

たとえば私が専門とする森田療法では
森田療法の考え方を理解すれば、
過敏性腸症候群による腹痛や下痢に対応できることもあります。

自分で行う自律訓練法も有効です。

自律訓練法とは、リラックスした姿勢で
「重い」「温かい」などの言葉を唱え、
自己催眠状態を体験する方法。

お腹の痛みや違和感がある感覚を
「あるがまま」「感じたまま」に放っておくことで、

不安や焦りで症状が悪化するのを防ぐ効果があります。

ところで最近、長時間残業によるストレスや
自殺が問題になっています。

私が気になるのは、残業の時間数ばかりが
クローズアップされている点です。

残業が少なくても、ストレスで身体症状が出る人もいます。

残業が多いかどうかより、
管理職が敏感に反応して本当に具合の悪い人を
予見できるかどうか。こちらのほうが大きな問題ですね。

 

伊藤克人(いとう かつひと)さん
東急病院心療内科医長/東急電鉄株式会社健康管理センター所長
専門は、心身医学、産業医学、森田療法等。
内科系心療内科医としての病院での診療活動と、
東急電鉄をはじめとする各社で通常の産業医業務とともに、
働く人のメンタルヘルス対策に関わる活動を行っている。

出典:日経Gooday
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100023/041800034/?waad=abLZtgAl