一度、壊死した心臓の心筋細胞は元に戻らない。
心臓のポンプ機能は低下したままになる。
しかし人工心臓も心臓移植も必要なく
心筋細胞を蘇らせる治療、
心筋シートを使う心臓病治療が始まった!
しかも健康保険が使える。
以下は、世界で初めて、
「筋芽細胞シート」による心臓病の治療に成功された
大阪大学医学部の澤芳樹教授のお話です。
澤教授は患者自身の脚の筋肉細胞を培養して、
シート状にして心臓の筋肉(心筋)に貼り付ける
「筋芽細胞シート」移植の臨床研究を成功させた。
2016年、心不全治療用の再生医療製品
「ハートシート」として条件付き承認された。
健康保険(公的医療保険)の適用も得て、
「実際に受けられる治療」として歩み始めた。
世界初の画期的なことだ。
心臓の細胞は死ぬともとに戻らず、機能は衰える
心筋梗塞を起こすと、
血管が詰まり、一時的に心筋への血液が途絶える。
すると、心筋細胞は壊死の状態になり、
血液を全身に送り出すポンプ機能が低下し、
心不全の状態になる。
一度、壊死した心筋細胞は元に戻らず、
ポンプ機能は低下したままになる。
このような状態に対して澤教授は
筋肉細胞の高い修復能力を心臓に利用して
「弱りきってサイトカインが出なくなっている心臓に、
サイトカインを出す細胞を大量にシートにして貼り付けられれば、
心臓の機能が回復するはず」と考えた。
患者自身の細胞からつくるので
免疫拒絶反応もなく安全性も高い。
臨床研究が40例行われ、細胞シートによる治療は、
比較的高い確率で心不全の患者に効果があることが示された。
2015年9月に
「ハートシート(骨格筋由来筋芽細胞シート)」は
再生医療製品として薬事承認され、
2016年の1月からは
健康保険(公的医療保険)が適用になった。
ハートシートは心臓に貼るため、
「心筋シート」と呼ばれるようになる。
そして、2016年8月には保険適用後、初の手術が行われた。
治療に保険が利くうえ、心臓病に対するさまざまな
医療費助成が受けられるので、
患者が負担する治療費は、 大きく軽減された。
また、心臓移植の場合は、
生涯、免疫抑制剤を服用しなくてはならなかったが、
心筋シートの場合、心不全治療の薬を続ける必要はあるが
手術前より薬を減らせる可能性もある。
増える心不全患者を救う道
心疾患は、欧米では死因第1位、
日本でもがんに次いで死因第2位の病で、
しかも平成26年度の心疾患の総患者数は
172万9000人とがんに次いで多い。
(厚生労働省「平成27年患者調査の概況」)。
再生医療で心臓の機能自体を
回復させることができれば、
日本だけでなく世界中の多くの患者を
助けることができる
この治療は今は、澤教授のいる
大阪大学医学部附属病院でしか受けられないが、
東京女子医科大学をはじめ、
心筋シートによる治療が受けられる病院は
今後、徐々に増える予定だ。
心筋シートでは救えない患者に向けた取り組み
「虚血性心筋症の場合は、
心筋はもともと正常なので、
筋芽細胞シートから出るサイトカインで
血管新生が起きて血液が流れ出すと、
それだけで心臓の機能が回復するケースが多い 」(澤教授)。
ところが、「拡張型心筋症の患者は
遺伝的な背景がある人も多く、
心筋シートの移植で一時的に心機能が改善しても、
結局、病気が進行して心機能が悪くなってしまうケースもある」という。
つまり、この筋芽細胞由来の心筋シート
では救えない患者もいるのだ。
そんななかで登場したのが、iPS細胞だ。
澤教授によれば、
「iPS細胞から心筋細胞がつくれれば、
真の意味での『心臓の細胞移植』が可能になる。
心臓の細胞でできた心筋シートも夢ではない」
将来、iPS細胞の開発でノーベル賞を受賞した
京都大学の山中伸弥教授との成果に期待したい。
≪筋芽細胞シートの移植手術概要≫
出典:日経Gooday
澤 芳樹(さわ・よしき)
大阪大学大学院心臓血管外科教授。
専門は心筋シートによる再生医療、
心臓血管外科、心臓移植、人工臓器など。
日本再生医療学会理事長。
出典:日経Gooday
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/16/122100070/022300004/?waad=abLZtgAl